高総体
 
                                                   本正 園子
 今から18年前の、高校3年生の時の高総体を今でもはっきり思い出す。
日傘を差して日本庭園の方に肩を落として歩いていった母の後ろ姿。
 1部女子200M、私は3連覇がかかっていた。準決勝が終わった時点で
26”5、自己記録を0,1秒縮めていた。ライバルは25”9で準決勝を通過した盛岡南高校2年生のS選手だった。
 準決勝が終わったときS選手は余裕で話しかけてきた。「先輩、決勝頑張りましょうね」
勝利を確信している堂々とした言動だった。
 誰もがS選手の勝利を疑わなかった。もちろん私の母も・・・
だから、私のことをかわいそうに想いあふれる涙を隠すために日本庭園に行ったのだろう。
 私は、その日傘を差した後ろ姿をダウンに行くときにみつけた。
そんな悲しそうな母の後ろ姿を見たときに。「負けられない、絶対に勝つ、何が何でも勝つ」そう、決意した。
 会場の誰もがS選手の勝利は確実と思っていた。私のチームメイトも・・・
 しかし、自分は、自分の心は燃えていた。付き添いに来てくれた後輩にだけ、「絶対に勝つ、信じていて」と言ってスタートについた。

 スタートから全力で行った。自分の全ての力を出した。ゴールまで無我夢中で走った。
結果は、25”7 優勝した!!自己記録を0,8秒更新。たった1時間で・・・
S選手は、25”9準決勝と同じ記録だった。ゴール後S選手は信じられないという顔をしていた。
 奇跡が起きた。
 強気の心、負けん気、信じる心。勝利に対する執念がそこにあった。

 自分だけの力で勝ったのではない。
でも、この勝利は母の力だったと今でも思う。
自分を応援してくれる人の存在は、大きな力になる。

 グランドに来て余計な事は話さなくても良い。ただ、そこにいて欲しい。
 グランドにいるだけで、親の気配を感じるから不思議だ。
 自分の娘を必死で声援して欲しい。私は、保護者にそれを望む。

 高総体で、一生懸命競技に取り組む娘。
 たとえ、県で入賞しなくたって必死で自分に挑戦している。
 自分の事のように選手を応援するマネージャーやチームメイト。

 こんな、娘の一生懸命な姿を見れば涙があふれてくる。
 高総体の会場には、勝っても負けても感動がある。

今年の高総体。主役は自分の娘です。
そして、娘には無くてはならない友人(チームメイト)これも宝物。
自分の娘がかわいいのは当たり前。
でも自分の娘と涙を流し、汗を流し、時間を共有する部員も娘の一部です。

だから、この北上翔南チームを応援して下さい。

今でも、私の両親はひそかにグランドに足を運びます。
自分の娘の生活の一部となっている陸上競技。
自分の娘が愛情を注いでいる分身のような部員達。
そんな、部員を応援するために・・・
そして、娘の頑張りを見るために・・・
本当は、もう一度親の前でトップで走る姿を見せたい。今でも思う時があります。
その、私の心を選手に託して・・・
きっと、自分の娘の姿をだぶらせているのでしょう。

 そして、グランドに足を運ぶ先輩達。頑張っていた自分の姿をみんなにだぶらせている。

 高総体、この季節になると私は、こんな事を考えています。